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#31
ソリッドモデルのための航空資料研究・実践編
― 図面・写真を模型製作用資料に仕上げる

基礎編では、写真、図面、雑誌、書籍などの資料を、どのように探し、読み、比較し、整理するかを考えてきました。

実践編では、その次の段階として、

「集めた資料を、実際に模型製作に使える形へ整える」

ことを扱います。

古い図面には、縮尺の違い、紙面の歪み、綴じ部分の変形、線のかすれなどがあります。

古い写真には、網点、低解像度、傷、コントラスト不足、不鮮明な文字などがあります。

これらをそのまま模型製作に使うのではなく、

・寸法を確認する
・歪みを補正する
・線画を修復する
・写真を見やすくする
・複数資料を比較する

という作業を行うことで、資料の価値をより高めることができます。

この実践編では、そうした作業を一つずつ取り上げていきます。


第11話 三面図を正確な縮尺にする
― 実機寸法から模型用図面を作る

ソリッドモデルを作る場合、最初に必要になるのが、

正しい縮尺の三面図

です。

図面に「1/24」「1/32」と書かれていても、コピーやスキャン、PDF化によって、実際の大きさが変わっていることがあります。

したがって、印刷された縮尺表示だけを信用するのではなく、

実機寸法から確認する

必要があります。

まず実機寸法を確認する

最初に確認したいのは、

全長
翼幅
尾翼幅
プロペラ直径

などです。

特に、

全長と翼幅

の2つが重要です。

この2つが分かれば、側面図と上面図の両方を確認できます。

模型寸法を計算する

たとえば実機の翼幅が20 ftだったとします。

20 ftは、

20 × 12 = 240 in

です。

1 in = 25.4 mmなので、

240 × 25.4 = 6096 mm

となります。

1/24模型なら、

6096 ÷ 24 = 254 mm

です。

したがって、図面上の翼幅が254 mmになるように調整します。

全長と翼幅の両方を確認する

ここが重要です。

翼幅を合わせたあと、

全長も正しいか

を確認します。

もし翼幅は正しいのに全長が合わないなら、

単純な拡大縮小では直りません。

図面そのものが縦横方向に変形している可能性があります。

倍率を計算する

たとえば、現在の図面上の翼幅が240 mmで、

必要な模型寸法が254 mmなら、

254 ÷ 240 = 1.0583

です。

つまり、

105.83%

に拡大すればよいことになります。

印刷ソフトや画像編集ソフトでは、この倍率を指定します。

最終印刷後にも測る

画面上で正しくても、プリンター設定によって再び大きさが変わる場合があります。

特に、

「用紙に合わせる」

「ページにフィット」

などが有効になっていると、勝手に縮小されます。

したがって、

最終的には印刷した紙の上で定規を当てて確認する

ことが必要です。

縮尺表示より基準寸法を信頼する

古い図面では、

「3/8 inch = 1 ft」

のような縮尺表示があっても、雑誌掲載時に縮小されていることがあります。

この場合も、

図面に書かれた実機寸法を基準にする

方が安全です。

最終的に縮尺線を付ける

補正した図面には、

100 mm

500 mm

1 ft

などのスケールバーを付けておくと便利です。

後でPDFや画像を再保存した際にも、縮尺が変わっていないか確認できます。

次回

縮尺が正しくても、雑誌をスキャンした図面には、

紙面の歪み

が残ることがあります。

次回は、その補正を扱います。

第12話 雑誌の綴じ歪み・紙面歪みを補正する
― 曲がった図面を模型製作用に整える
#32
第10話 一機分の最終製作資料を作る
― 図面・写真・寸法・塗装を一つにまとめる

ここまで、

・写真
・図面
・雑誌
・寸法
・塗装
・登録記号
・Race No.
・エンジン
・細部

を調べてきました。

最後に必要になるのが、

実際に模型を作るための最終資料

です。

資料をたくさん持っていても、製作中に毎回探していては効率が悪くなります。

そこで一機分の情報を、できるだけ一つにまとめます。

最初に機体仕様を一行で決める

たとえば、

Keith Rider R-6 "Eight Ball", NX96Y, 1938 configuration

のように、

何を作るのかを一行で定義します。

これが製作中の基準になります。

基準三面図を決める

最終資料には、

基準となる三面図

を一つ選びます。

補助図面は別に残しますが、模型寸法は原則として基準図面から取ります。

主要寸法表を作る


項目実機寸法模型寸法
全長――
翼幅――
尾翼幅――
プロペラ直径――

この形にしておくと、製作途中で毎回換算する必要がありません。

写真は必要なものだけ選ぶ

最終資料には、

・左側面
・右側面
・斜め前
・斜め後ろ
・上面
・脚
・機首
・コックピット

など、製作に必要な写真だけを選びます。

大量の写真を全部入れるより、代表写真を絞った方が使いやすくなります。

塗装・マーキング図を別ページにする

色とマーキングは、外形図とは別に一枚にまとめます。

・機体色
・Race No.
・登録記号
・スポンサー文字
・ロゴ
・プロペラ
・ホイール

などを整理します。

確定事項と推定事項を分けて記載する

たとえば、

確認済み
NX96Y
Race No.18
主翼形状

推定
撮影年月
一部の塗装色
細部の配置

のように分けておくと、製作中に迷いません。

資料の食い違いも残す

エンジン馬力や年式など、資料間に違いがある場合は消さずに残します。

その上で、

今回の模型ではどの資料を採用したか

を明記します。

最後に「製作判断」を記録する

模型では、資料だけでは決められない部分があります。

その場合、

「写真Aを優先」

「Hirsch図面を採用」

「Kerka図面の断面を参考」

のように、

自分が何を根拠に決めたか

を残しておきます。

後で見直すときに非常に役立ちます。

一機分の資料が一つの研究記録になる

こうして整理すると、完成した資料は単なる模型製作用メモではありません。

・どの資料を使ったか
・どこが確定していたか
・どこが不明だったか
・なぜその形にしたか

が残ります。

つまり、

模型一機分の小さな研究記録

になります。

それが、ソリッドモデル製作の面白さの一つだと思います。

ここまでのまとめ

この「ソリッドモデルのための航空資料研究」では、

第1話 古い航空写真をどう調べるか
第2話 古い航空雑誌をどう読むか
第3話 精密な航空機模型のための資料整理
第4話 三面図を模型製作に使える形へ補正する
第5話 写真から図面を検証する
第6話 古い航空機の色をどう調べるか
第7話 登録記号とRace No.を追う
第8話 エンジンとプロペラを調べる
第9話 左右で違う細部を見落とさない
第10話 一機分の最終製作資料を作る

と進めてきました。

写真、図面、雑誌、記録。

それらを一つずつ確認していくことで、

模型を作るための資料探しが、そのまま航空史を調べることにつながっていきます。


次回からは実践編へ

ここまでの第1話~第10話では、写真、図面、雑誌、書籍などの資料を、
どのように探し、読み、比較し、整理するかを扱ってきました。

次回からは、

「ソリッドモデルのための航空資料研究・実践編」

として、実際の図面や写真を模型製作に使える状態へ整える作業を扱います。

・三面図の縮尺調整
・雑誌スキャンの歪み補正
・かすれた線画の修復
・網点写真の補正
・文字やマーキングの復元
・複数図面の比較

など、実際の作業手順を具体的に紹介していきます。
#33
第9話 左右で違う細部を見落とさない
― 排気、冷却、ピトー管、文字を確認する

航空機は左右対称に見えます。

しかし実際には、

左右で違う部分

が少なくありません。

ソリッドモデルでは、片側写真だけを見て左右同じに作ると、実機と異なることがあります。

排気管は左右で違うことがある

エンジン配置によって、排気管の数や位置が違うことがあります。

片側写真だけでは判断できません。

冷却ルーバーにも左右差がある

カウリングのルーバーや開口部は、

左右で数が違う。

片側だけ閉鎖されている。

ということがあります。

R-6のように、図面注記で左右差が示されている例もあります。

ピトー管やアンテナは片側だけ

ピトー管。

アンテナ支柱。

小さなベント。

などは片側だけにある場合があります。

模型では小さな部品ですが、実機らしさに影響します。

文字も左右反転とは限らない

スポンサー名や登録記号は左右に描かれることがあります。

しかし配置や大きさが完全に同じとは限りません。

写真で左右を確認します。

上面と下面も別物として考える

主翼上面には登録記号。

下面にはRace No.

というように、上下でマーキングが違うことがあります。

上面写真がない場合は、図面やレース資料を探します。

模型用図面の対称表現に注意する

模型用図面では、分かりやすさのため左右対称に描いてある場合があります。

しかし実機写真が違うなら、写真の情報も考慮する必要があります。

次回

次回は、ここまで集めた資料を使って、

一機分の最終製作資料を作る方法

をまとめます。

第10話 一機分の最終製作資料を作る
― 図面・写真・寸法・塗装を一つにまとめる
#34
第8話 エンジンとプロペラを調べる
― 外観だけでは分からない仕様変更を追う

航空機模型では、機体外形だけでなく、

エンジンとプロペラ

も重要です。

同じ機体でも、エンジン換装によって機首形状が大きく変わることがあります。

とくにレーサーでは、より高い出力を求めて短期間にエンジンが変更されることがあります。

まずエンジン形式を確認する

確認したいのは、

・メーカー
・型式
・気筒数
・排気量
・出力
・過給器の有無
・回転数

などです。

ただし資料によって馬力表記が違うことがあります。

その場合は、無理に一つに決めず、資料ごとの数値を残します。

エンジン換装は機首を変える

同じMenasco系でも、型式が変われば、

・全長
・重量
・冷却
・排気
・カウリング

に影響します。

R-4からFirecrackerへの変化は、そのよい例です。

プロペラも年式判定の手がかり

プロペラは、

・2枚か3枚か
・固定ピッチか可変ピッチか
・スピナーの有無
・ブレード形状
・ハブ形状

などが変わることがあります。

写真で機体年式を判断するとき、非常に役立つ部分です。

スピナーがない理由にも意味がある

スピナーが付いていないからといって、単に未完成とは限りません。

構造上、

プロペラのカウンターウェイトと干渉する

などの理由で装着できない場合もあります。

図面の注記を読むことで、理由が分かることがあります。

エンジン名だけで判断しない

同じ系列名でも、末尾記号によって仕様が異なる場合があります。

B-6S

C-6S

C6S-4

のように、細かな型式まで記録します。

写真で見える外観も記録する

エンジン仕様の文字資料とともに、

・排気口
・ルーバー
・吸気口
・プロペラハブ
・スピナー

も写真で確認します。

次回

次回は、模型で意外に見落としやすい、

左右非対称の細部

を取り上げます。

第9話 左右で違う細部を見落とさない
― 排気、冷却、ピトー管、文字を確認する
#35
第7話 登録記号とRace No.を追う
― 同じ機体でも番号が変わる理由

古いレーサーを調べていると、

登録記号

と、

Race No.

が重要な手がかりになります。

しかし、この二つは役割が違います。

登録記号は機体そのものを識別するための番号です。

一方Race No.は、競技のために付けられる番号です。

この違いを理解しておかないと、機体の年代や履歴を誤って判断することがあります。

登録記号は機体を追う手がかり

たとえばKeith Rider機では、

R51Y
R52Y
R261Y
R264Y
NX96Y

などがありました。

登録記号は、機体名や塗装が変わっても同一機を追う手がかりになります。

R、NR、NXなども記録する

古いアメリカ機では、

R
NR
X
NX

などの表記が見られます。

これらは単なる飾りではなく、登録状態や時代背景と関係しています。

したがって、写真に見える文字を省略せず、そのまま記録しておく方がよいでしょう。

Race No.は競技ごとに変わることがある

同じ機体が別のレースでは違う番号を付けることがあります。

逆に、同じRace No.が複数年使われることもあります。

そのため、

Race No.だけで機体や年を特定しない

ことが大切です。

番号は写真で直接確認する

文献にRace No.が書かれていても、写真に実際に何番が描かれているかを確認します。

特に古い写真では、

3と8。

1と7。

6と8。

が判読しにくいことがあります。

拡大しても分からない場合は、

判読不能

としておく方が安全です。

愛称と番号を混同しない

レーサーには、

Eight Ball

Bumble Bee

Jackrabbit

Firecracker

などの愛称があります。

これらはRace No.とは別です。

マーキングが大きい場合、愛称由来の図柄を番号と誤認することもあります。

表で整理すると分かりやすい

一機の履歴を整理する場合、

年登録記号Race No.機体名・愛称
1936R264Y22Elmendorf Special
1938–39NX264Y22Jackrabbit

のようにすると変化が見えやすくなります。

次回

次回は、

エンジンとプロペラの仕様

をどう確認するかを扱います。

第8話 エンジンとプロペラを調べる
― 外観だけでは分からない仕様変更を追う
#36
第6話 古い航空機の色をどう調べるか
― 白黒写真、塗装記録、スポンサー色から考証する

古い航空機を模型にするとき、最後まで悩むことが多いのが、

色

です。

図面が正しくても、塗装やマーキングが違うと、完成した模型の印象は大きく変わります。

ところが1930年代以前の航空機では、残っている写真の多くが白黒です。

そのため、

「この機体は何色だったのか」

という問題は、写真だけでは簡単に答えが出ません。

今回は、古い航空機の色をどのように調べればよいのかを考えてみます。

白黒写真の濃淡だけで色を決めない

白黒写真を見ると、

濃い部分は黒。

明るい部分は白。

中間は灰色。

と考えたくなります。

しかし実際には、写真の濃淡は色そのものだけでは決まりません。

・使用されたフィルム
・光の方向
・露出
・表面の光沢
・反射
・印刷状態
・スキャン状態

などで大きく変わります。

同じ赤色でも、写真によって暗くも明るくも見えます。

したがって、

白黒写真の濃淡だけから色名を断定するのは危険

です。

まず文字資料を探す

色を調べるとき、白黒写真より先に探したいのが、

塗装について書かれた文字資料

です。

たとえば図面に、

light blue

dark blue numerals

black 8-ball, white center

のような記載があれば、非常に重要な情報になります。

Kerkaの図面のように、色指定まで記載されている資料は貴重です。

スポンサーの色も手がかりになる

レーサーの場合、

・Gilmore
・Kendall Oil
・Shell
・Texaco

などのスポンサー名やロゴが描かれていることがあります。

企業ロゴには一定の色が使われている場合があります。

したがって、

スポンサーの当時の広告や看板

を調べることで、機体マーキングの色を推定できることがあります。

ただし、ロゴの標準色が、そのまま機体に使われたとは限りません。

ここでも断定は避けます。

カラー写真があっても安心しすぎない

古いカラー写真が残っている場合でも注意が必要です。

フィルムは経年変化します。

赤が強くなる。

青が抜ける。

全体が黄変する。

ということがあります。

さらに、デジタル化された際に色補正されている場合もあります。

したがって、

一枚のカラー写真だけで塗料色を決めるのも危険

です。

複数資料を重ねて考える

色の考証では、

・白黒写真
・カラー写真
・図面上の色指定
・当時の広告
・雑誌記事
・修復機の記録
・博物館資料

を組み合わせます。

一つの資料から答えを出すのではなく、

複数の資料が同じ方向を示しているか

を見るのがよいと思います。

修復機の色は「参考」であって「証拠」とは限らない

博物館に現存している機体を見ると、

「この色が正解」

と思いたくなります。

しかし、修復時に推定塗装が行われている場合があります。

したがって、

修復機の現在色と、当時の実機色を区別する

必要があります。

修復記録が残っているなら、

なぜその色が選ばれたのか

まで確認するとよいでしょう。

模型では「色名」と「塗料番号」を分けて考える

資料に、

light blue

と書いてあっても、

現在の模型塗料の何番に相当するかは別問題です。

まず、

歴史資料上の色名

を記録し、

その後で、

模型用塗料への置き換え

を考える方が安全です。

資料上の記述と、自分の塗装選択を混同しないことが重要です。

色にも確度を付ける

たとえば、

A:当時の公式塗装記録
B:複数の研究資料が一致
C:一つの図面や記事のみ
D:白黒写真からの推定

というようにしておくと便利です。

模型完成後に新資料が見つかった場合も、見直しやすくなります。

次回

次回は、

登録記号とRace No.をどう読むか

を扱います。

第7話 登録記号とRace No.を追う
― 同じ機体でも番号が変わる理由
#37
第5話 写真から図面を検証する
― 側面写真、斜め写真、遠近法をどう読むか

図面があっても、

実機写真との照合

は欠かせません。

図面には作図者の判断が入り、

写真には遠近法や撮影角度の影響があります。

したがって、どちらか一方だけを絶対視しないことが大切です。

最も使いやすいのは真横の写真

真横に近い写真では、

・胴体長
・キャノピー位置
・垂直尾翼形
・主翼取付位置
・脚位置

を比較しやすくなります。

ただし、完全な真横でない場合は遠近差があります。

斜め前の写真は機首が大きく見える

斜め前から撮った写真では、

機首やプロペラが大きく見えます。

そのため、

写真から直接寸法比を測るのは危険

です。

形状確認には使えますが、寸法確認には慎重さが必要です。

斜め後方写真は主翼平面形に有効

後上方からの写真は、

・翼端形状
・テーパー
・胴体と翼の接合
・尾翼形状

を見るのに非常に有効です。

R-6のように主翼形状が変更された機体では、とくに役立ちます。

影を輪郭と間違えない

白黒写真では、

影、反射、塗装境界、外板継ぎ目

が区別しにくいことがあります。

一本の黒い線が見えても、それが構造線とは限りません。

別写真で確認します。

一枚の写真で決めない

写真検証では、

複数方向から見る

ことが重要です。

一枚では正しく見えなかった形が、別角度でははっきり分かることがあります。

図面と写真が合わないとき

すぐに、

「図面が間違い」

「写真がおかしい」

と決めるのではなく、

・年式違い
・改造前後
・撮影角度
・図面の縮尺歪み
・作図者の推定

を疑います。

とくにレーサーでは、同じ機体でも短期間で外観が変わります。

模型製作では「見た目の正しさ」も重要

三面図上で寸法が正しくても、完成模型を実機写真と並べたときに印象が違うことがあります。

その場合、

・胴体断面
・機首の丸み
・キャノピー高さ
・翼厚
・翼根形状

などを再検討します。

ソリッドモデルでは、

数字と見た目の両方を確認する

ことが大切です。

次回

次回は、模型の印象を大きく左右する、

塗装とマーキングの考証

を扱いたいと思います。

第6話 古い航空機の色をどう調べるか
― 白黒写真、塗装記録、スポンサー色から考証する
#38
第4話 三面図を模型製作に使える形へ補正する
― スキャン、歪み、縮尺、縦横比を整える

雑誌から三面図をスキャンしたとき、

「線はきれいなのに、上面図と側面図の長さが合わない」

ということがあります。

原因は、

・本の綴じ部分
・紙の湾曲
・スキャナー
・印刷
・コピー
・PDF化

などです。

そこで必要になるのが、

図面の幾何学的な補正

です。

最初に基準寸法を確認する

まず、

全長。

翼幅。

尾翼幅。

など、実機寸法を確認します。

この数字が補正の基準になります。

上面図と側面図を別々に測る

図面上で、

側面図の全長。

上面図の全長。

主翼幅。

を測ります。

本来同じであるはずの全長が違う場合、図面が変形しています。

縦方向と横方向を別々に補正する

単純な拡大縮小だけでは直らないことがあります。

その場合、

横方向と縦方向を別々に補正

します。

ただし、これは元図を変形させる操作でもあります。

必ず元画像を残します。

本の湾曲による歪み

雑誌を開いた状態でスキャンすると、綴じ側が曲がります。

その結果、

・胴体が曲がる
・翼の後縁が歪む
・左右が非対称になる

ことがあります。

これは単純な縦横比補正では直りません。

局所的な変形補正が必要です。

左右対称だからといって片側をコピーしすぎない

航空機は基本的に左右対称ですが、

・排気管
・冷却口
・ピトー管
・ルーバー
・アンテナ

などは左右で違うことがあります。

したがって、外形補正では対称性を利用しても、

細部まで完全に左右コピーしない

ことが重要です。

断面図も位置を確認する

胴体断面は、

どの位置の断面なのか

が重要です。

側面図・上面図上のステーション位置と対応させます。

断面だけ別に拡大してしまうと、模型製作時に合わなくなります。

最終縮尺にするのは最後

図面補正の順番は、

1. 歪み補正
2. 縦横比確認
3. 実機寸法との一致
4. 各ビューの整合
5. 最終縮尺へ変更

がよいと思います。

最初から1/24や1/32にしてしまうと、途中の補正が分かりにくくなります。

次回

図面を補正したら、次は写真との照合です。

第5話 写真から図面を検証する
― 側面写真、斜め写真、遠近法をどう読むか
#39
第3話 精密な航空機模型のための資料整理
― 写真・図面・寸法を一機分の製作資料にまとめる

写真、図面、雑誌記事を集めても、そのままでは模型製作に使いにくいことがあります。

資料が増えるほど、

「どの図面を基準にすればよいのか」

「この写真は何年の仕様なのか」

「この寸法はどの資料に書いてあったのか」

が分からなくなります。

そこで必要になるのが、

一機分の資料を一つの製作資料セットとして整理すること

です。

最初に「何を作るか」を決める

まず決めるのは機種名ではありません。

何年の、どの仕様を作るのか

です。

たとえば、

Keith Rider R-4

だけでは不十分です。

1936年のR-4なのか。

後のFirecrackerなのか。

R-6なら、

1938年型なのか。

後期の楕円翼型なのか。

これを決めてから資料を集めます。

基準図面を一枚決める

複数の図面があっても、すべてを同じ重みで使うと混乱します。

そこで、

基準図面

を一枚決めます。

基準図面には、

・全長
・翼幅
・主要断面
・主翼位置
・尾翼位置

ができるだけ明確なものを選びます。

他の図面は比較用として使います。

実機寸法で図面を補正する

雑誌やコピーの図面は、縦横比が変わっていることがあります。

そのため、

実機の既知寸法

を基準に補正します。

たとえば、

全長 20 ft 5 in

翼幅 18 ft 0 in

のような寸法が分かっていれば、

上面図と側面図がその比率になるよう調整します。

写真は方向別に分ける

写真は、

・左側面
・右側面
・前方
・後方
・上方
・コックピット
・脚
・エンジン周辺
・塗装、マーキング

に分けます。

これだけでも、製作時に必要な写真を探しやすくなります。

塗装資料は別にする

外形資料と塗装資料を一緒にすると混乱します。

そこで、

塗装・マーキング資料

は別に整理します。

・機体色
・数字
・登録記号
・スポンサー名
・ロゴ
・プロペラ色
・タイヤ、ホイール

などを記録します。

確定事項と推定事項を分ける

資料整理では、

確定していること

と、

推定していること

を分けます。

たとえば、

「NX96Yは写真で確認」

は確定事項です。

一方、

「この写真は1939年撮影と思われる」

は推定かもしれません。

両者を同じように書かないことが重要です。

簡単な確度を付ける

私は、次のような分類が便利だと思います。

A:公式記録・一次資料で確認
B:複数の信頼できる資料が一致
C:一つの二次資料のみ
D:写真などからの推定

模型製作資料としては、この程度でも十分役立ちます。

一機一フォルダにする

デジタル資料は、

コード 選択
Aircraft_Name/
  01_Drawings
  02_Photos
  03_Documents
  04_Colors_Markings
  05_Notes

のように分けると使いやすくなります。

製作前に「仕様表」を作る

最終的には、

・機体名
・年
・登録記号
・Race No.
・エンジン
・全長
・翼幅
・主翼形状
・プロペラ
・塗装
・資料出典

を一枚にまとめます。

これが、

模型製作の設計仕様書

になります。

次回

次回は、図面そのものを模型製作に使うために、

スキャンした三面図の歪みや寸法をどう補正するか

を扱います。

第4話 三面図を模型製作に使える形へ補正する
― スキャン、歪み、縮尺、縦横比を整える
#40
第2話 古い航空雑誌をどう読むか
― 記事・写真・図面を資料として使うために

古い航空機を調べるとき、実機写真と並んで重要なのが、

航空雑誌や書籍

です。

とくに1930年代以前の航空機やレーサーでは、現在のWebサイトに載っていない情報が、古い雑誌記事の中に残っていることがあります。

そこには、

・当時の写真
・三面図
・機体寸法
・エンジン形式
・Race No.
・登録記号
・競技記録
・関係者の証言
・改造の経緯

などが含まれています。

しかし、

「雑誌に書いてあるから正しい」

とは限りません。

今回は、古い航空雑誌や書籍を、模型製作と航空史調査のための資料としてどう読めばよいのかを考えてみます。

まず発行年を見る

記事を読むとき、最初に確認したいのは、

いつ書かれた記事なのか

ということです。

たとえば1935年のレーサーについて、

1935年に書かれた記事と、

1965年に書かれた回顧記事と、

1985年に書かれた研究記事では、

資料としての性格が違います。

同時代の記事には、

・当時の呼称
・競技直後の記録
・その時点での仕様
・当時の写真

が含まれていることがあります。

一方、後年の記事には、

・複数資料の比較
・関係者への聞き取り
・後から分かった機歴
・改造履歴の整理

などが含まれることがあります。

したがって、

古い記事ほど正しい、新しい記事ほど正しい、という単純な話ではありません。

同時代資料と後年の考証を分ける

資料は大きく、

同時代資料

と、

後年の考証資料

に分けて考えると分かりやすくなります。

同時代資料には、

・新聞
・レースプログラム
・登録資料
・メーカー資料
・当時の雑誌

などがあります。

後年の考証資料には、

・航空史研究記事
・回顧録
・博物館資料
・研究者による図面
・機体史をまとめた書籍

などがあります。

Robert S. HirschやW. F. Kerkaの図面も、後年の考証資料として読む必要があります。

これは価値が低いという意味ではありません。

むしろ、

後年の研究によって、当時は分からなかったことが整理されている

場合があります。

本文だけでなく写真キャプションを読む

古い航空雑誌では、本文だけでなく、

写真キャプション

が非常に重要です。

写真キャプションには、

・撮影時期
・機体名
・登録記号
・Race No.
・パイロット名
・改造前後の状態

などが書かれていることがあります。

短い一文でも、

before modification

rebuilt with sliding canopy

1936 configuration

などの表現が、機体の状態を判断する手がかりになります。

キャプションも絶対ではない

一方、写真キャプションにも誤りはあります。

・年がずれている
・機体名が後年の名称になっている
・Race No.が違う
・似た機体と取り違えている

といったことがあります。

したがって、

キャプションと写真そのものを照合する

ことが大切です。

尾翼の登録記号。

胴体のRace No.

スポンサー名。

カウリング形状。

キャノピー。

主翼形状。

こうしたものを見て、説明と一致しているか確認します。

図面の作図者を見る

雑誌に三面図が載っていると、

「雑誌の図面」

として扱ってしまいがちです。

しかし図面には、

・メーカー原図
・研究者による再作図
・模型用図面
・別資料からの転載

などがあります。

そのため、

誰が描いた図面なのか

を確認することが重要です。

作図者名と作図年月日が明記されている場合は、必ず記録しておきます。

細かい図面ほど正確とは限らない

リベットや内部構造まで細かく描かれた図面を見ると、

とても正確に見えます。

しかし、

細密さと正確さは別問題

です。

細部が推定で描かれていることもあります。

逆に、簡単な図でも、メーカー原図や公式寸法を基にしていれば、外形は非常に正確な場合があります。

したがって、

・作図者
・作図年
・基準寸法
・出典
・実機写真との一致

を見る必要があります。

数字はとくに注意する

古い記事で最も注意したいのが、

数字

です。

・最高速度
・平均速度
・馬力
・重量
・翼幅
・全長
・燃料容量

などは、一度誤った数字が掲載されると、その後の本に繰り返し引用されることがあります。

したがって、

複数の本に同じ数字があるから正しい、とは限りません。

可能なら公式記録や一次資料までさかのぼります。

一冊だけで結論を出さない

一冊だけ読んでいると、矛盾には気づきません。

二冊、三冊と比較すると、

「この部分だけ数字が違う」

「こちらでは1938年、別の資料では1939年」

という違いが見えてきます。

重要な事項ほど、

複数資料を比較する

方が安全です。

ページ番号を残す

後で最も困るのが、

「どこに書いてあったか分からない」

という状態です。

そのため、

ページ番号を必ず記録する

ようにします。

ファイル名にも、

コード 選択
AAHS_1981_Spring_p22_Rider_R6_Kerka.jpg

のように、

・誌名
・年
・号
・ページ
・機体名

を入れておくと便利です。

引用と要約を分ける

重要な短い表現は原文を引用できます。

一方、長い記事はそのまま転載するのではなく、

自分の言葉で要約する

方がよいでしょう。

引用する場合には、

・著者
・書名または誌名
・ページ

をできるだけ示します。

資料を疑うことは、資料を否定することではない

古い資料を読むとき、

資料を疑って読む

ことは大切です。

しかしこれは、

「信用しない」

ということではありません。

誰が書いたのか。

いつ書いたのか。

何を基にしているのか。

他の資料と一致するのか。

そこまで考えることで、その資料をより正しく使えるようになります。

次回

次回は、集めた写真、図面、寸法、記事を、

一機分の製作資料としてどう整理するか

を考えます。

第3話 精密な航空機模型のための資料整理
― 写真・図面・寸法を一機分の製作資料にまとめる